医療や介護など気になったことのお話です

 
 

統合新病院について思うこと         2025.2.23

青森県立中央病院(県病)と青森市民病院が合併した「統合新病院」の開院が7年後の2032年10月に決定しました。浜田中央公園・県営スケート場に緊急医療施設やヘリポートをもつ地域中核病院です。病床数は2病院の合計1143床より約35%減った750床です。一方新病院の外来患者数は1700人と想定していて現在の県病1200人、市民病院700人の合計1900人の約10%減にすぎません。今でも県病では駐車場から国道に及ぶ長い交通渋滞が日常的に起こっています。新病院の周囲に激しい交通渋滞がおきることは容易に想像できます。
2月8日開催された第15回県病医療連携フォーラムにおいてシンポジストとして参加する機会があり、県病の外来棟を新病院(以下「本院」)の「外来分院」としての再利用を提案しました。初診は予約の時点で緊急性、重症度を勘案し「本院」か「外来分院」に振り分ける、また状態が安定した方は「外来分院」で治療とすることで「本院」外来の混雑は軽減するはずです。CTなどの医療設備や駐車場をそのまま使うため「外来分院」の設置にはコストがかからないこともメリットです。また県病が移転することで青森市の東部地区の医療体制が他の地区と比較し手薄になることを補填することにもなり東部地区の市民にとって「外来分院」の存在は大きな意味を持ちます。
このほか市役所本庁となりの市急病センターを県病の救命救急センターに移転する、市民病院は回復機能を主体とする包括的医療の専門病棟としての活用することもコストがかからない再利用として挙げられます。
青森市は現在の約26万人から2040年には約20万人に減少すると予想され高齢化も一層進みます。新病院が時代に即した医療体制・医療連携の中心となる基幹病院になってほしいと思います。

新たな問題  電子処方箋とは?     2024.8.15

4月から当院でもマイナ保険証がつかえるオンライン資格確認システムの体制ができてヤレヤレと思っていたら今度は厚労省から電子処方箋発行の要請が届いています。
電子処方箋とはこれまで紙の処方箋を電子化したものです。医療機関での発行された処方箋はネットを介して「電子処方箋管理サービス」に登録されます。患者さんには処方内容と引き替え番号を記載した紙の「処方箋控え」が交付されます。患者さんは希望する調剤薬局行きマイナ保険証で受け付けをすると薬剤師が処方情報をダウンロードし調剤します。紙の保険証の場合は、処方箋控えの引換番号で患者さんの処方箋ファイルを特定し調剤します。処方箋を紛失しても再発行の必要がないというのが「うり」ですが手間と費用に比較してメリットに乏しいのは明らかです。何しろ処方内容を記載した「処方箋控え」を発行するのですから現在の紙の処方箋と変わりありません。
電子処方箋を発行するためには専用の機器の購入、設置が必要です。専門業者に委託しますが電子機器ですから高額です。国からの補助金はありますがそれでは全く足りません。しかもその後の維持費や故障・修理はすべて自前です。国がどうしても必要なシステムであれば国が医療機関に無償で配布、または貸与すべきで医療機関に費用負担を強いるのは理解できません。
マイナ保険証の利用率は6月の時点で全国で9.9%にすぎません。ちなみに当院では4%です。デジタル庁のホームページには現在でも「マイナンバーカードは申請に基づいて交付」となっていて決して義務や強制ではありません。従ってマイナ保険証は希望者のみが申請・利用すべきもので従来の保険証は廃止できないはずです。政府は現行の保険証は今年12月2日に廃止すると表明したものの、あまりの普及率の低さにマイナ保険証の未取得者には当分の間有効とされる「資格確認証」を交付するという苦肉の策をうちだしました。
8日の閣議後の河野デジタル相の記者会見ではいまだに「マイナ保険証は義務や強制ではない」と言い張っています。国の2枚舌は今に始まったことではありませんが、この状況で黙って国に従えというのは無理な話といえます。

青森市の人口減少、高齢化と救急医療        2024.4.16

2017年発行の河合雅司著「未来の年表」では人口減少がもたらす様々な影響について書かれています。それによると2024年は3人に1人が65歳以上の超高齢化となり深刻な老老介護、2025年は東京都もついに人口減少に転じ4人に1人が高齢者、2030年は百貨店、銀行、老人ホームが地方から消える、2040年は自治体の半数が消滅の危機と日本の悲惨な将来を予測しています。
人口減少と少子高齢化は以前から問題視されていましたが政府は一向に有効な対策をとれないまま現在に至っています。国立社会保障・人口問題研究所が昨年12月に公表した推計によると青森県の人口は2020年の約123万人から2050年には39%減の約75万人、青森市は約27.5万人から37%減の約17万人になります。これだけでも十分衝撃的ですが更にその年齢構成が大きな問題です。青森市では14歳以下が2.9万人から1.3万人で約55%減、生産年齢人口である15歳から64歳が15.8万人から7.8万人で約50%減、一方65歳以上の高齢者は8.8万人から8.3万人で約6%減にすぎません。この結果、市民のほぼ2人に1人が高齢者になります。
青森市医師会も同様です。最近、若い医師の新規開業がないため高齢化が進んでいます。「青森市急病センター」は市から医師会が委託され運営しています。コロナ渦では「地域外来」として新型コロナ感染症に特化した診療でしたが4月からは以前と同じ体制で診療することになっていました。ところがコロナ渦の4年間で高齢化が進んだこともあり協力できる医師が半減し以前と同じ業務は困難になりました。そのため火、木、土、日曜の4日間は医師会が担当し月、水、金曜日は県病から医師が派遣されることになりました(診療科、診療時間の詳細はホームページを参照)。ただ現在協力している医師は60歳後半が最も多いため数年後70歳以上になれば週4日間の診療でさえ難しくなるでしょう。市は今のうちに青森市の新しい救急医療の構築に着手すべきです。
人口減少と高齢化による様々な問題に眼をそらさず早期に対策をたることが必要です。

医師の働き方改革について     2023.12.29

 来年4月から「医師の働き方改革の運用」が始まります。これは長時間労働になりがちな医師の健康を守り仕事と家庭の両立を実現するためのものです。
私が勤務医の頃は朝8時前に回診、帰宅は早くて夜8時、遅いと次の日。休日の回診や処置、救急対応のため時間外労働は月100時間前後、多いときは150時間でした。上には上がいるものでICU(集中治療室)に泊まり込み1週間自宅に帰っていない猛者もいました。当直では寝る暇なく、当直明けも通常通りの仕事ですから連続36時間の勤務です。若いときはつらくはなかったのですが30歳代後半ともなると当直明けは倦怠感や頭重感で歳を感じたものです。このように当時の労働環境は完全にブラックでした。
働き方改革の第一歩は労働時間の管理です。4月から勤務医の時間外労働は年間上限960時間(A水準)、救急など緊急性の高い2次、3次医療機関では1860時間(B水準)、医師の養成や研修するための医療機関では1860時間に制限されます(C水準)。また連続勤務時間はどの医療機関でも上限28時間です。時間外労働が年間960時間は月平均80時間で、これは一般企業では過労死ラインとされる時間で1860時間はその約2倍です。かなり過酷な基準ですが医療機関によっては常勤医だけでは日当直をまかないきれないこともあるようです。
ここで問題となるのは実働時間とそれ以外の宿当直時間、待機時間、研鑽時間(学会発表の準備など)などの区別が個々で明確でないことです。これを実情に即して決めておかないと正しい労働時間が把握できません。また36協定(時間外、休日に関する協定)の締結や勤務医との面接指導が義務化されます。
医療機関や診療科により微妙に勤務形態が異なるため、円滑な運用には柔軟性のあるシステムにすべきです。この改革は勤務医にとって大変重要であり、それは患者さんを守るためのもなるはずです。

インボイス制度       2023.8.14

 今年の10月からインボイス制度が始まります。インボイスは「適格請求書」のことで取引の際に相手に交付する消費税に関係した内容を記載した請求書や領収書をいいます。インボイス制度はインボイスを利用した消費税の新しい仕入れ控除の方式のことです。インボイス制度の理解には消費税のしくみを知る必要があります。消費税は業者間の取引ごとに発生します。業者Bが業者Aから商品を10000円で買い業者Cに30000円で売るとします。業者Bは業者Aとの取引の際に10000円の10%、1000円の消費税を支払います。業者Bは業者Cに売る際に業者Cから30000円の10%、3000円の消費税をうけとります。業者BはCから受け取った税からAに支払った消費税を差し引いた差額の2000円を国に納付します。つまり受け取った消費税から支払った消費税を相殺した金額を納税し、これを仕入れ税額控除といいます。ただ年間課税売上高が1000万以下では消費税の納税の義務がなく免税業者といいます。これまでは業者が免税業者、課税業者どちらでも消費税を支払っていれば業者間の消費税の相殺が可能でした。これから始まるインボイス制度ではインボイスを発行できるのは課税業者のみと定められています。もしAが免税業者であればインボイスが発行されず消費税関連の証明がないため課税業者Bは免税業者Aに支払った消費税分1000円の相殺ができなくなります。そのため課税業者Bこれまで2000円であった納付が3000円になり余計な納税1000円が発生します。この余計な納税を避けるために課税業者Bは免税業者Aに課税業者になってもらうか、消費税分を値引きしてもらうか、取引中止の3つしかありません。
これは医療機関も同様で健診や予防接種など健康保険診療以外の収入や医薬品や検査薬などの購入がインボイス制度に関係します。これらの取引があっても少額のため免税業者になっていた医療機関は今後、課税業者に変更するなどの選択をせまられます。
免税業者が課税業者になるとおおよそ年間売上高の5%程度の納税が発生すると概算されます。また事務負担も確実に増え会計システムの変更などの費用が発生することもあります。
この制度は今後6年間の経過措置期間が設定されています。インボイス制度は企業にとって得することは何もなくなく零細企業にとっては死活問題といえます。

「マイナ保険証」と「医療DX」     2023.4.29

2月16日の閣議で2024年秋にこれまでの健康保険証が廃止されマイナンバーカードと紐つけされた「マイナ保険証」切り替わることが決定されました。これは事実上の「マイナ保険証」の義務化であり、本来任意の取得であったはずのマイナンバーカードを強制するものです。政府が「マイナ保険証」を急ぐ理由は、昨年5月に自由民主党政務調査会で日本の医療分野における情報のあり方を改革する「医療DX (digital transformation) 令和ビジョン2030」を推進するためと思われます。この医療DXとは保険・医療・介護の各段階(発症の予防、受診、診察・治療、処方箋、診療報酬の請求、介護の連携、地域医療連携など)のデータを外部に保存、共通化、標準化を行うことでより良質な医療やケアを受けられるように社会や生活の形を変えるとシステムと定められています。
医療DXは「医療情報プラットフォーム」、「電子カルテの標準化」、「診療報酬改定DX」の3つの骨格からなります。診療情報の他、予防接種や自治体健診のデータ、介護情報などの個人情報は国が収集し管理(ビッグデータ)します。「医療情報プラットフォーム」の基本となるのがオンライン資格認証です。このオンライン資格認証は「マイナ保険証」を使って認証するシステムのためマイナンバーカードを義務化し「マイナ保険証」とすることで既存の保険証を廃止するわけです。
医療機関でオンライン資格認証に対応するには「マイナ保険証」を読み取るカードリーダーとオンライン認証専用のパソコン一式の導入が必要になります。機器の購入には一部補助金がでますが設置後の維持管理費や修理費などは全て医療機関の負担になります。
このシステムの導入は今年4月までの設置完了が義務化されていましたが間に合わない医療機関が多いため9月まで延長になりました。現在、全国の診療所の約60%で稼働しているにすぎません。当院は昨年9月発注したシステム一式の納品が今年2月末、ITベンダーとの契約や機器の設置は3月下旬でぎりぎり間に合い、今のところ大きなトラブルなく稼働しています。また政府は今後電子カルテしか認めないことも発表しています。電子カルテは機器自体が非常に高額で維持費もかかります。現在紙カルテを使っている医療機関にとっては新たな経済的負担が生じます。このように医療DXは医療機関に対して様々な負担を強いるもので対応出来ない医療機関は廃院に追い込まれる可能性があります。
今後の医療を大きく変える医療DXですが政府は取得したビッグデータをどう活用するのか、医療費削減のために利用され世界に誇る国民皆保険制度が縮小・制限されるきっかけにならないか大いに不安です。

後発品メーカーの今後     2022.12.4

後発医薬品(以下後発品)は先発医薬品(新薬)の特許が切れたあとに製造、販売される医薬品のことです。有効成分は同一のため薬としての効果、効能は同等とされますが添加物や製造方法は先発医薬品と異なります。つまり大福でたとえるとあんこは同じだけど包んでいる餅が違うという商品です。(大雑把すぎる?・・・)
最近、後発品メーカーの不祥事が大きな問題になっています。
きっかけは小林化工の抗真菌剤(水虫薬)に睡眠薬の成分が混入、意識障害などの健康被害が約200件発生し2名が死亡した事件です。これにより小林化工は廃業、同業他社に譲渡されました。
これをきっかけにメーカーに通告なしで立ち入り調査が行われ日医工では製造工程の不正が10年以上行われていることが判明、行政処分をうけたあと業績が悪化、債務超過におちいり現在経営再建の途中です。
日医工は沢井製薬と後発品販売高のトップを争う大きなメーカーでしたのでこの事件は大きな衝撃でした。その他、久光製薬、北日本製薬、長生堂製薬、松田薬品工業、日新製薬などが製造に関する問題で業務停止などの行政処分を受けています。
国は2000年代から医療費の削減のため強く後発品の使用拡大を推し進めてきました。この間に多くのメーカーが参入し価格競争が激化しただけでなく2年ごとの薬価改定で薬価が下がり収益が減少します。更に薬の安定供給には設備投資が必要になり品質維持まで手が回らない状況がうかがわれます。現在、処方量の80%がすでに後発品でありこれまでのような販売の拡大は見込めません。その一方で品質管理や安定供給の負担は増えていきます。
国内には約200社の後発品メーカーがあるとされ今後統合や合併など適切な対応が必要になると思われます。

健康保険証の行方    2022.8.6

健康保険証(以下保険証)は職場が変わると返納し新しい職場から新たな保険証が発行されます。ところが返納せずに以前の保険証を使用すると、すでに無効な保険証ですから通常1割または3割の医療費負担を全額負担することになります。また医療機関では保険証から氏名や生年月日、住所などの患者情報をカルテに登録することが必要になります。
以前からこのような間違いや事務手続きを軽減するために保険証を患者情報を書き込んだICカードにできないものかと考えていました。
政府は5月発表の「骨太の方針」で来年4月以降マイナンバーカードのICチップに保険証の情報を書き込んだ「マイナ保険証」とし、医療機関ではオンラインで即座に患者情報を確認、登録するシステムの導入を決定しました。さらにこのカードには過去の処方も記録されるためお薬手帳が不要になります。
いいことずくめのシステムですがはたして国民が望んでいるのでしょうか?
マイナンバー、マイナンバーカードが必要なのは公的文書の申請や交付、納税、金融などのサービスがほとんどで、しかも一時的な使用にすぎません。ほとんどの方は携帯せず自宅に大切に保存していると思います。職場ではマイナンバーが記載された書類は用事がすめばすぐに廃棄、マイナンバーの保存にはパスワードのかかったパソコンに厳重に保管するのが普通です。それだけマイナンバーやマイナンバーカードの管理には気を遣います。
従って定期的な通院に個人の情報が詰まったマイナンバーカードを携帯するのは大いに疑問です。特に高齢者では盗難や紛失が危惧され、その際の対応も迅速にはできないでしょう。
マイナンバーカードと保険証の一体化より、まず保険証を写真付きのICカード化するのが現実的と思います。その結果、カードの利便性が理解され国民の要望があれば、その時にマイナンバーカードに保険証の情報を紐付けすれば済むことです。
運転免許証もマイナンバーカードと一体化することが決められており常時個人情報を詰め込んだマイナンバーカードを携帯することは大きなリスクも含みます。マイナンバーカードを介して全ての個人情報を政府が把握、管理するという意図が見え見えで最も利便性を享受できるのは政府に違いありません。

リフィル処方箋について        2022.3.8

 新型コロナウイルスの流行やワクチン接種などありホームページの更新が遅れてしましました。今回は 「リフィル処方箋」 についてです。
新型コロナウイルス感染の蔓延で右往左往している医療機関を尻目に1月の中医協総会で2022年診療報酬改定におけるリフィル処方箋の導入が了承されました。
リフィル処方箋とは定められた期間内・回数内であれば同じ処方箋で医師の診療なしで、つまり医療機関にはいかなくても直接薬局に行って繰り返し薬をもらえる処方箋のことです。
患者さん側からすれば薬をもらうための来院の手間がはぶけ医療費負担が減り、ひいては国の医療費削減にもつながります。特に安定した慢性疾患を有する方には便利な処方箋と感じるでしょう。
医療機関側からみると受診回数が減り長期間診察できないことに伴う医療事故の可能性や病気の早期発見、早期治療の機会を失うことが懸念されます。通院回数が減ることで医業収入が減少することは明らかで特に慢性疾患患者が多い医療機関への影響は大きいと思われます。
また調剤薬局側からみると2回目以降は門前薬局でなく自宅や会社に近い薬局を選ぶようになることから経営への影響が予想されます。さらに薬剤師が患者さんの状態把握をすることになり薬剤師の責任は大きくなります。
このようにリフィル処方箋の導入は今後の我が国の医療を大きく変えることは間違いありません。特に医療機関の経営には少なくない影響があると思います。
リフィル処方箋は 「診察しないで処方することは禁止」 という保険診療の大原則に反するものです。どう整合性をとるのか今後の成り行きを注視する必要があります。